テニスと体力 vol.2

テニスと無酸素能力

スポーツの世界には、長い間持続して酸素を取り入れる競技(マラソン・水泳長距離)や、少ない酸素でパフォーマンスを完遂する競技(陸上の短距離・ウェイトリフティング)など特性に応じた様々な競技があります。前者の方のVO2MAXが比較的高値を示すことになります。

特に大学生アスリートなど熟練の競技者になるほど、競技特性に応じてVO2MAXがはっきりと分かれてきます。

ここまで、前置きが長くなってしまいましたが・・・

日本テニス協会に所属する男子ジュニア(中学・高校生)~ユニバーシアード選手を対象にシャトルランを計測した論文があります(小屋ら,2014)。そこから間接的にVO2MAXを推定してみました(図1)。ちなみにシャトルランの各世代の平均回数は12~14歳で125回、15~17歳で136回、18歳以上で138回でした。

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図1.シャトルランからの推定VO2MAX値

運動になぜ酸素が必要なのか

運動をすると酸素摂取量が増える(呼吸が活発になる)理由は、筋肉に元々含まれている、筋肉を動かす物質「ATP(アデノシン三リン酸」を再合成するためです。

激しい運動を継続するほど、このATPという物質は筋肉で消費されます。そのため呼吸を盛んにして肺へ多くの空気を取り入れ、血液に酸素を多く取り込むことによって糖や脂質を分解しATPを再合成しようとします。

極論ですが、貯蔵分のATPを使うだけなら再合成をする必要がない、つまり酸素を必要としません。筋肉に予め貯蔵されているATPによって約8秒間筋肉を動かし続けることができます(ATP−CP系)。なのでこの時のパフォーマンスを有酸素能力と対照的に「無酸素能力」と呼びます。

テニスに必要なのは有酸素 or無酸素?

プロ・アマ問わず試合において1ポイントにかかる時間は5~10秒で、平均移動距離が2.5mくらいだと言われています(ferrauti,2003)。

つまりプレーの多くはATP−CP系(=無酸素能力)の貢献によるものと考えられます。これ以上の運動時間だと、糖を分解してATPと乳酸を産生する解糖系(=無酸素寄りの有酸素能力)を経て、より多くの酸素を取り込んで糖質+脂質を分解してATPを産生する有酸素系(=有酸素能力)へと移行していきます。

テニスは貯蔵ATPを用いるATP-CP系と、使ったとしても無酸素よりの解糖系までのエネルギー供給系を主に用いることになります。試合で有酸素能力が求められる場面は少ないと考えられます。

となると単純にシャトルランなどの有酸素能力を測るテストでテニスの実力を推し量ることは難しそうです(テニスに限らずパフォーマンスを定量化するのは難しいですね)。

ただ、有酸素能力が高いほうがキツくて長い運動に耐えられるようになるため、動きの質を落としづらくなるという点で練習の効率は上がりそうです。つまり基礎体力(有酸素能力)があれば練習効率が上がるという理論ですね。

しかし実際の試合で必要なのは基礎体力だけではなく、短時間のプレーの質が求められます。

休憩を挟んだ短時間高強度の組み合わせである「インターバルトレーニング」を利用してしっかりと追い込めれば、無酸素能力と有酸素能力の両方を向上させることができます。なのでインターバルトレーニングでしっかり追い込むことをベースに体力向上に取り組むことが効率が良いのではないでしょうか。

トレーニング例:100m全力スプリント(15~20秒以内)→レスト(10秒)×7セット 等

→しっかり追い込めれば6週間でVO2MAXが13%、無酸素能力が35%向上する可能性があります(田端ら,1996)

まとめ

テニスにおいて有酸素能力は練習を効率よく行うための基礎体力としてある程度必要ですが、試合では1ポイントにかかる時間・移動距離の関係からそこまで重要ではありません。

また、有酸素能力はインターバルトレーニングでしっかりと呼吸器系を追い込めれば向上するのでマラソンを頻繁に行うことで高めようとするのは非効率的です(残存トレーニング効果的には月1ペースで良いのではないかと考えます)。

マラソンなどは、「試合中の暑さに慣れるため」・「脂肪を落とすため」など他の目的と合わせて行うと効率も上がるのではないでしょうか。

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